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「千亮(ちあき)君、来てくれてありがとう」
宇谷の下の名前は千亮。
養護教諭は声もかわいらしかった。
宇谷は伊久見に友人を紹介した。
「先生、こちらが僕の大学の同級生で、この221学園で養護教諭をしている羽衣亜々沙(はごろも ああさ)さんです。亜々沙ちゃん、こちらは僕がお世話になっている伊久見先生です」
亜々沙は驚きで目を見開いた。
「まあ、こちらが千亮君の師事する先生ですか! 初めまして。羽衣亜々沙です。お忙しいのに、こんな遠いところまでありがとうございます」
愛らしい瞳を向け、白魚のような手を拝むように合わせた亜々沙の可憐さに伊久見は衝撃を受けた。
『分かったぞ! 宇谷君! 君の下心が、よーく分かった! この人を助けて特別な好意を持たれたいんだな! それなら協力しようじゃないか!』
宇谷が恰好付けて引き受けてしまう気持ちはとても理解できる。
彼女をがっかりさせることなど、男なら絶対にできないだろう。
そしてあわよくば、『素敵……』とうっとりした顏で見つめられたい。
だから伊久見は引き受けることにした。
事件そのものより人間関係で決めてしまった。
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