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「そうだね。1億円なりの価値がある美しい指輪だが、正直、欲しいとは思わない。1億円くらいの指輪ならセレブ達の婚約指輪でもザラにある。あのルビーの指輪に比べたら石ころみたいな物だね」
「じゃあ、何で予告状を出したんですか?」
「可哀想な指輪を救いたくなってね」
「可哀想な指輪?」
「あの指輪が客席から見えると思うかい」
「思いません。指輪なんて小さな物、客席からロクに見えやしないでしょうね」
「そうだろう? ましてや、美しいか、美しくないかなんて解らない」
「お芝居を主催した劇場のオーナーは、美しい物を見せようと指輪を提供したのではなく、話題作りの為に指輪を小道具に提供したそうですからね」
「客寄せの為だけに使われるなんて可哀想な指輪だと思わないか?」
「確かに可哀想な指輪かも知れないけど、だからと言って盗んでいい訳がないですよ」
「君は私の邪魔をする気なのか?」
「邪魔をしたらどうするって言うんです」
「さて、どうしようか。こんなに美しくて可愛らしい少年なら何をしてしまうか解らないな」
窓に座っているファントムの顔は見えないが、僕は全身を凝視されている気がした。
何だ、この、いやらしく怪しい雰囲気は……。
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