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僕はシアターのアルバイトの面接を受け、そして採用された。
面接には年齢や性別を詐称した履歴書を持参し、女装して行った。
僕は普段から見た目や声で、女子に間違えられる事も多いし、女装はした事はなかったが、自信があった。
それにメイクでかなり大人っぽい顔にする事が出来た。自分で言うのも何だが、なかなかの出来だったのだ。
★★★
舞台初日、日曜日の朝。朝食を摂っている兄さんの前に、僕が女装姿で現れると、兄さんは「どなた?」と言った。
完璧だ!! 家族でも解らないなんて、僕にも変装の才能があるんじゃないか!?
僕は今、自前の茶色の髪を、黒の前髪パッツン・ロングヘアーのウィッグで隠し、茶色の目を黒のカラーコンタクトレンズで隠している。
さらに、つけまつげとメイクをして黒ぶちメガネをかけ、下がスカートのスーツという変わり果てた姿で、兄さんに微笑んでみせた。
兄さんは僕をしばらく、じっと見つめて、突然、衝撃を受けたように持っていた箸をポロリと落とした。そして急に立ち上がると、頭を下げて、こう言った。
「葵をよろしくお願いします!」
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