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拍手喝采の中、お芝居は無事終了し、アルバイトの時間が終わると僕はシアターを出た。
僕は刑事ではないから、兄さんの捜査には加われない。だから家に帰るしかない。
冬の空気は冷たく、素敵なお芝居で熱く満たされていた心も、あっと言う間に冷めたくした。
肩を縮こめて帰り道を歩いていると、兄さんからスマホに電話がかかってきて、今夜は泊まり込んで指輪の警備をするとの事だった。
結局、僕は何にも出来なかったし、この夜も、この先も、何も出来ないんだろうと思うと無力感でいっぱいになった。
何だか気が抜けてしまった。
電車を乗り継いで家に着くと、コートとスーツをリビングルームにだらしなく脱ぎ散らかし、ワイシャツと下着1枚になる。
ウィッグとメガネを取り、カラーコンタクトと、つけまつげを外し、洗面台で顔を洗って、コンビニで買ったお弁当を食べながらテレビを観た。
正しく言えば観たと言うより、ただテレビをつけてボンヤリしていただけだった。
1時間ほどして僕は2階から話し声のようなものが聞こえて来る事に気づく。
この家には今、僕しか居ないのに。
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