97人が本棚に入れています
本棚に追加
「嘘じゃないさ」
僕は自分の激しくなる心臓の音を感じながら、警戒しつつ、少しずつ人影に近付いて行った。
「ははっ、君は勇気があるな。いいぞ」
ファントムが楽しそうに笑って言った。
月の薄明かりが窓の外から入って、ファントムのシルエットを浮かび上がらせている。
身体にアスリートが練習着に着るようなタイトな黒の上下を着け、黒い手袋を着けている事は解るが顔は見えない。
「よく見えない……」
「では、もっと近くにおいで」
僕はベッドの上に乗り、四つん這いになって、窓辺に座るファントムにじわじわと近付いた。
手を伸ばせば掴めるくらいの距離で、僕は月明かりに浮かぶファントムの顔を見た。
黒髪のオールバックに、強い意志を感じさせる黒く澄んだ瞳、鼻筋の通った形の良い鼻、鼻の下に整えられた髭、キュッと引き締まった唇。20代後半に見える綺麗な青年の顔があった。
ハッとして息を飲む。きっと僕は今、顔を赤くしている。
最初のコメントを投稿しよう!