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舞台はきらびやかな仮面舞踏会のシーン。
クリスティーヌはラウルから貰った婚約指輪を胸元のチェーンに通して着けている。
仮面舞踏会に浮かれる人々の賑やかさを一瞬に凍らせるように登場したオペラ座の怪人役は、深紅のコスチュームに白い手袋、黒いロングブーツ、深紅のマントをきのうと同じく身に着けていて、遠目から見ても胸の刺繍がキラキラと光っている。
あれを着こなすには、それなりにスタイルも良くないといけない。
あの役者ときたら、声も顔もスタイルもいいんだ……。僕は心をときめかせた。
もうそろそろ、オペラ座の怪人が、クリスティーヌの指輪をチェーンごと引きちぎり、奪う場面になる。
きのうはそこでヒヤッとしたのだ。
オペラ座の怪人に化けたファントムが本当に指輪を奪ったんじゃないかと思って。
もし、僕がファントムで、舞台上で指輪を奪うなら、あのタイミングにするかも知れない。
いや、待て、もっと先でもいいだろうか。僕はあれこれ考える。
瞬間、僕は気づいた。
その小さな違和感の理由に。
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