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あのオペラ座の怪人役、歌声は素晴らしいけれど、きのうの役者と歌声が微妙に違うんだ!
そっくりだけれど、違うんだ。
この地獄耳なら解る。
歌声に聞き惚れて、すぐに気づけなかったが確信する。
僕は通路際の席に座っている兄さんの元に走り寄って行き耳打ちした。
「兄さん、あのオペラ座の怪人役をやってる役者、ファントムが化けてるんだ! きのうと声が違うんだ! それにファントムは髭を生やしてた!」
「なにっ? ファントムだって!?」
兄さんは立ち上がった。
「シーッ!」
周りから注意され、兄さんは、すいませんと言って再び座る。そして舞台を真剣な顔で見つめた。
兄さんは僕を信じてくれないのか?!
舞台に目を移すと、オペラ座の怪人がクリスティーヌから指輪を奪うシーンだった。
舞台の上でオペラ座の怪人がクリスティーヌに言う。
「お前の鎖はまだ私に繋がっている。お前は私の物だ」
兄さんが信じてくれないなら、もういい! 僕は舞台に向かって走り出した。
しばらくして兄さんが、恐らく無線機で「ファントムがオペラ座の怪人に化けています! 捕らえて下さい!」と言うのが僕の地獄耳に聞こえた。
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