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オペラ座の怪人役がクリスティーヌ役から指輪を奪った瞬間、舞台の両袖から、刑事らしき人物が1人づつ飛び出して、オペラ座の怪人役に向かって行った。
観客達がザワつき出す。
オペラ座の怪人役、いや、ファントムは2人をヒラリとかわし、1人の顔面に強烈なパンチを食らわせ、もう1人の横っ面に華麗な回し蹴りを食らわせ、2人を簡単に倒してしまうと舞台の左袖に走った。
「待てっ! ファントム!!」
僕は舞台によじ登り、ファントムを追う。
すでに迷ってしまいそうな入り組んだバックステージの奥には、使われていない古い階段があり、階段は地下に続いている。
増築と改築を何度も重ねたシアターの、迷路のような地下に続く階段を駆け降り、僕は引き離されないように、ファントムの後を必死で追いかけた。
僕らの後を追って来る刑事らしき者の姿はない。地下の迷路で迷子になったんだろうか。
ファントムが非常口のドアを開けて錆びた螺旋階段を今度は駆け上がり始めた。
お芝居、オペラ座の怪人の、荘厳でドラマティックな曲がバックステージにも響き、僕の耳を捕らえる。
僕は後を追いながら、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出し、兄さんのスマホに電話をかけた。
留守電になる。
劇場なので当然電源を切っているのだ。しかし、何度も何度も電話をかけた。
兄さんが、やっと電話に出ると、「西にある使われてない非常階段を登れ!」と言って僕は電話を切った。
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