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「あなたのお芝居が本物って事ですか?」
「偽物でもあって、本物でもあるね。私はあの役者より上手くオペラ座の怪人を演じられたと思うがね」
「確かに、きのうの役者の歌声も良かったけど、あなたの歌声にはそれを上回る高揚感を覚えました」
『君には本物を観せたいね。指輪も舞台も』
ファントムが僕の部屋で言ったあの言葉はそう言う意味だったのだ。
本物の指輪はともかく、自分自身を本物だなんて、自惚れている。
確かに、聞き惚れてしまう歌声だったけれど……。
「しかし、君があそこで私だと気づくとは思わなかった。観客はみんな、指輪にしろ、役者にしろ、本物と偽物の区別がつかないのだと思っていたからね」
「僕はとんでもない地獄耳なんです」
「ちょっとした実験でもあったんだ。本物と偽物の区別がつく人間がいるのかどうか。区別のつかない人間に見せる指輪も舞台もあってはならないと私は思っているからね」
「たいがいの人間は解らないですよ」
「私や君みたいな人間が芸術を崇高なものにするんだよ。芸術は娯楽になってはならないんだ」
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