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「そうか、じゃあ仕方ねえな。どうぞお大事に」
苦い気持ちを隠し、ビジネスライクに応対して通話を切った。相手はスタッフの山谷という男の子だ。
鼻の詰まった声で申し訳なさそうに謝っていたが、多分それは休みを得るための演技だろう。
山谷は最近彼女が出来て、仕事中に何度もこそこそ連絡していた。恋の始めだから浮かれるのも仕方ないと見逃してたが、よりによって今夜休みやがるなんて。
畜生、俺だって休みてえ。いやいっそ、店を臨時休業にしてえ。
「明日は這ってでも出ます、ってか……判ってんのかよ。ただでさえ一人欠けてんだぞ」
実は一週間前、もう一人のスタッフが盲腸で入院していた。
これで本日の戦力は通常時の五十パーセントダウン、最悪に忙しい夜確定だ。考えるだけでアタマ痛えぜ。
「ボックス二つくらい減らすか……メニューも見直し、だな」
キッチンで仕込みしながら溜息を吐いていると、カオルがリビングからやって来た。いつもの如く、くたびれたスウェットに寝癖だらけという超ダサいスタイルだ。
カッコイイところしか知らねえファンの連中が見たら、泣くぞ。
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