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「ほら、翔さん。今タクシー呼びましたから……来るまでに水飲んで少しでも覚ましてください」
背中をさすりながら促すと、男は突っ伏していた顔を上げてのろのろと水のグラスに手を伸ばす。
だがその手が余りにも不安定で、察した慎さんが自分の手も添わせて口許までグラスを運ぶ。
あ……くそ。
なんかわからんけど、なんか腹立つ。
それにこれじゃ、まるで俺が悪者みたいじゃねえか。
あ、だから腹が立つのか。
妙に甲斐甲斐しく見える慎さんと世話される男の構図にいらっと来て、そっぽを向いた。
そっぽを向いていても、二人の会話は当然聞こえてくる。
「やべ……まじで飲み過ぎた」
「もう……仕方ない人ですね」
「うるせ」
「あ、待ってください。タクシーが来るには多分まだ……」
「いい。外で風にあたってる」
そんな言葉と同時に、二人がカウンターを離れる気配がした。
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