男の口説き方

22/22
前へ
/22ページ
次へ
そういえば。 今日少し出かけると言っていたのを、佑さんの言葉で思い出す。 慎さんの方へ目を向けると、明らかにむすっと機嫌を損ねた表情が浮かんでいた。 「そういえばどこ行くんですか」 「貴方には関係ありません。掃除が終わったらさっさと帰ってくださいね、”またのお越しを”」 二度と来るなとでも言いたげな口調だった。 磨いていたグラスを棚に置き、佑さんにすら一言もなく奥の扉を開ける。 ほんの少しだけ振り向いて一瞥くれると、ばたん!と乱暴な音を一つ残して扉の向こう男へ消えてしまった。 「良かったんすか、ちょっと本気で怒ってたみたいですけど」 「いんだよ、それよりちょっと来い」 再度手招きをされて近づくと、佑さんはソファに座ったまま前傾姿勢になり、それにつられるように屈みこむ。 「バイト代出してもいいよ。その代わり頼みがある」 どうやら、慎さんには聞かれたくない話があるようだ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

477人が本棚に入れています
本棚に追加