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そういえば。
今日少し出かけると言っていたのを、佑さんの言葉で思い出す。
慎さんの方へ目を向けると、明らかにむすっと機嫌を損ねた表情が浮かんでいた。
「そういえばどこ行くんですか」
「貴方には関係ありません。掃除が終わったらさっさと帰ってくださいね、”またのお越しを”」
二度と来るなとでも言いたげな口調だった。
磨いていたグラスを棚に置き、佑さんにすら一言もなく奥の扉を開ける。
ほんの少しだけ振り向いて一瞥くれると、ばたん!と乱暴な音を一つ残して扉の向こう男へ消えてしまった。
「良かったんすか、ちょっと本気で怒ってたみたいですけど」
「いんだよ、それよりちょっと来い」
再度手招きをされて近づくと、佑さんはソファに座ったまま前傾姿勢になり、それにつられるように屈みこむ。
「バイト代出してもいいよ。その代わり頼みがある」
どうやら、慎さんには聞かれたくない話があるようだ。
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