きみは番犬

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階段を上がっていく人を数人見送ってから、漸く二階へ足を進めた。 この雑居ビルは、二階は空手道場だが三階はソシアルダンス、四階はフリースペースで規模の小さな個展に使われたりフリーマーケットに使われたりと期間によって用途が違う。 だから、ここの階段やエレベーターを使う人間は老若男女様々だった。 二階に上がってすぐ、大きなフロアと小さなフロアとに分かれていて、大きい方は子供や成人男性のクラスに使用されているが、この時間帯は小学生のクラスで「押忍!」と元気の良い声が聞こえてくる。 一方、僕が足を踏み入れた方のフロアは比較的おとなしく、挨拶もそれほど空手にどっぷりというわけじゃない。 「こんにちは」 と一礼して中に入ると、数名の女性がこちらを見て「きゃあ」と声を上げる。 この反応ももう毎回なので慣れた。 この教室の講師で、三十代くらいの白い道着姿の女性が僕に近づき声を上げて笑った。 「あはは。神崎さんが来ると、いつもフロアが桃色になる気がするわ」
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