例えるなら、水のような

12/21
前へ
/21ページ
次へ
『随分、人好きしそうな彼だね』 『そうですね。妙な下心がないので付き合いやすい方だと思いますよ』 正確には、下心があっても丸見えになりそうなヤツだから。 アンタみたいに気色悪く人の腹探って近づこうとはしないから、いい。 という本音はぐっと腹の底に押し込めて、精一杯笑って見せ、掴まれた腕を引く。 然程強く掴まれているわけではないが、わざとらしく指先に力が込められていて、腕、手首、手のひらとまるで撫でられているようだった。 ぞわわ、と鳥肌が立ったのは悟られたくはない。 アカラサマに嫌悪感を丸出しにして、この男の前で接客スタイルを乱されるのは絶対嫌だ。 手のひらを通過する瞬間、かり、と男の爪が肌を掻き、指先を恭しく掴んで掲げる。 『もう少し、君と話したいのだけど』 ……なんだこれ。 おっさんが王子様でも気取ろうってのか。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

493人が本棚に入れています
本棚に追加