例えるなら、水のような

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階段のステップを掃いている時だった。 顔を上げて、すぐにしまったと後悔した。 名前を呼ばれたわけでもないのだから、気付かないフリをしてさっさと店に戻れば良かった。 まあ、かといってそれで大人しく帰るタイプでもないかもしれないが。 「おはようございます、梶さん。お出かけですか?」 家がこの近くだと言ってたが、今日は祝日で普通の会社員は休みのはずだ。 彼の来店曜日からして、恐らく土日祝は休みなのだろう、と勝手な憶測をしていたけれど。 「この先のカフェのモーニングにでも行こうと思ってね」 「それはいいですね、優雅な朝食です」 「良かったら慎くんも一緒に」 「いえ、店の準備がありますので」 再び階段に目を落として、掃いている真似事をする。 掃除が済んでいようがいまいが、別にどっちでもいい、丁度掃き終わったフリをしてさっさと店に戻ろう。
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