例えるなら、水のような

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それほど広くない店内は、邪魔なものさえどけてしまえば掃除機にはそれほど時間はかからない。 僕がかけ終えて掃除機を片付けている間に、佑さんが椅子を元に戻していく。 その時、ギ、と少し耳障りな音がして扉が開いた。 開店中は音楽が流れているし気が付かなかったけど、一度油を差したほうがいいかもしれない。 「おはようございます、掃除手伝いますか?」 少し頭を屈めてこの扉をくぐるのは、彼くらいだろう。 パーカーにジーンズという長身が窮屈そうに入り口を抜けて入ってきた。 「おはようございます。今終わったとこですよ」 彼の手に茶色の紙袋があり、そこから香ばしい匂いがして思わず釘付けになった。 「……いい匂いがする」 「あ、流石っすね。実はこれ」 陽介さんが得意げな表情で紙袋の口を広げると、濃度を増したパンの香りに口の中がじゅんと潤った。
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