例えるなら、水のような-2

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ぐ、と奥歯を噛みしめる。 怖い、大丈夫、落ち着け。 逃げなければ、早く。 女だとばれてはいけない、男の前で女であってはいけない。 「おい? 君、何もそんなに……」 怯えることはないだろう? そう言いたげな訝しい表情の男と目が合う。 まずい、変だと思われた? 焦りだけが先走り、冷静さを見失う。 「離せって言ってるだろ!」 男の腕の中ですぐにも逃げ出そうともがくが、掴まれた手首はびくともしない。 腰にある手が、宥めるように背中を擦るが、おとなしくなってたまるかと相手を睨みつけた。 女とバレたら。 いや、この人はゲイなんだから、バレたとしても安全なのか? いや、抑々それを信じていいのか? 「慎くん?」 つ、と男の腕が脇腹を辿って上がり胸付近に近づいた時、ひっと上がりそうな悲鳴を飲みこんだ。
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