例えるなら、水のような-2

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――――――――――――――――――― ――――――――――――― 決して最初から、僕は男に成りすましていたわけじゃない。 女子高だった為校内では王子様扱いで結構慕われていたし、バレンタインには食べきれないくらいのチョコレートが集まったりもしたけれど、それとは別に、皆他校に彼氏がいたり好きな人がいたりした。 あくまで僕は、女だった。 ショートカットで背も女にしてはかなり高くて、学校指定のジャージなんか着ていたらそれこそ男にしか見えなかっただろうが、あくまで女だった。 だけど、ある夜を境に、僕は男の形しかしなくなった。 外では一人称を「僕」に変えた。 学校以外の場所では、男になりきった。 心配する家族の手前、なんとか高校、短大と卒業していよいよ女である必要がなくなった時。 僕は年の離れた姉の元旦那にバーで働かせてくれと頼んだ。 彼はあの夜家に遊びに来ていて、帰って来た僕の姿を見ていたから、何があったのかを僕が口を閉ざしたままでも察していた。 だから黙って、僕をこの店に置いてくれた。 彼が察してくれたであろうことが、事実と少し違うだろうことを僕は予測していたけれど、彼が何も言わないから僕も何も言わなかった。
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