あなたに、触れたい

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こくこくと頷く男の横を、慎さんを抱えたまま通り抜けてテーブル席のソファに横たえる。 慎さんに何か持病があるのだろうかとふと考えた。 だとしたら救急車を呼んだ方がいいだろうか。 佑さんからは何も聞いてないけれど……こうしてみると、ただ眠っているようにも見える。 顔色が悪い、ということ以外は。 慎さんを見下ろしながら思案していると、後ろから突然濡らしたハンカチが差し出された。 「お前っ」 「病人の前で余り大きな声を出すものじゃないよ」 扉から出て行った気配もなかったから、いるのはわかっていたが。 余計なことをしてないで帰れ、と怒鳴ろうとしたところを逆に牽制されて仕方なく言葉を飲み込む。 受け取ったハンカチで額の汗を拭うと、慎さんの表情が少し緩んだ気がして、そのまま額に乗せた。
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