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手のひらを上向けて
決してこっちからは近寄りすぎないように。
もどかしく感じるくらいの時間をかけて
ゆっくりと慎さんの手が伸びてくるのを待った。
ようやっと、細くて冷たい指先が手のひらの中央に触れた時、ほっと息をついたことで今まで自分が呼吸すら止めていたことに気がつく。
怯えさせないように
これ以上、怖い思いをさせないように
冷たすぎる指先を温めるように、やんわりと握っても
慎さんの手が逃げずにいてくれたことが嬉しかった。
「……冷え性ですか」
「うるさいな」
少し拗ねたみたいな尖がった唇で憎まれ口を叩きながら
ちらりと此方を窺う視線を上目遣いで向けられる。
冷え性かどうかなんて今聞かなくてもいいことだけど
どうでもいい話を、した方がいいような気がしたんだ。
慎さんがいつもの調子を取り戻してくれるように。
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