あなたに、触れたい

8/35
前へ
/35ページ
次へ
彼女の家の最寄り駅を降りて、歩いている間に話をしていると決して悪い子ではなく寧ろ話しやすいし感じも良かった。 皆で居る場所ではそれほど目立たない、控えめな話し方をする子だったけど二人だと案外話題もぽろぽろ出てくる。 今日の合コンは浩平の大学時代の女友達とのつながりでなされたものだということは聞いていたけれど、その友人と浩平に煽られて追っかけてくる嵌めになったらしい。 「なあに、それ。パン屋さんに並ぶのが用事なの?」 明日の祝日の話になって、好きな人のためにパンを買いに行くのだというと一瞬きょとんとした顔をして、やがてくすくすと笑われた。 「なんか、なんでも聞いてくれそうな雰囲気あるもんね、陽介くん優しいから」 「誕生日プレゼントだから。慎さんがわがままってわけじゃないよ」 まあ、慎さんが男だということは敢えて言わないけど。 そういや……慎さんの名前って漢字がなければ男でも女でも使える名前なんだなとふと気が付いた。 「ふうん……マコトさんっていうんだ」 間違いなく、彼女はマコトを真琴とか麻琴とか女の名前に脳内変換してるんだろう。 彼女は小さく頷き、何故かそこでぴたりと会話が途切れてしまった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加