438人が本棚に入れています
本棚に追加
「アカリちゃん、家まで送ったんだろうが。どうだったんだよ」
「ちょっ、浩平、ちょっと黙れ」
聞きたくもないのに、耳に流れてくる会話。
慌てた陽介さんの様子が、余計に苛立ちを募らせる。
胸を掻きむしりたくなるような、衝動をどうすればいいのかわからない。
「あの子、一人暮らしだしなー。上手いことやりやがって」
「家まで送れって言ったのお前だろうが!」
「でも送ったんだろ?」
「……へえ」
二人の会話に割り込んだ僕の声は、それはそれは低かった。
「ちょっ、慎さん、違いますからね?!」
「何がです? 昨日は合コン行かれてたんですね。お疲れなのに、付き合わせてしまって申し訳ない」
「それは数合わせで仕方なく……それに帰りが一緒になった子を送ったのは確かだけど、別に何も」
「送って当然のことです。何をそんなに慌ててるんですか」
自分が何を言ってるのか、自分でもよくわからないまま平静を装った。
今目の前で慌てている男に対して、湧き上がる感情を見せていいはずがない。
この感情に、わかりやすい名前が付いているのは知っている。
だけどそれを、絶対に認めたくないし悟られたくなかった。
最初のコメントを投稿しよう!