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「……っては、くれないんだ」
「え? なんて?」
「ううん、なんでもない」
余りにも小さな声で何事かを呟かれたが、尋ね返すと取り繕うような笑顔で首を振られる。
ふと右側から視線を感じて目を向けると、じとっと胡乱な目が二人分、俺に対して向けられていた。
「……鈍すぎ」
「なんかもう、ごめんなアカリちゃん」
「いえ、そんなっ、私は別に」
何故だか浩平が謝罪して、アカリちゃんが真っ赤な顔で慌ててまた首を振る。
俺一人だけが会話の意味を掴めていないようで、置いてきぼりだ。
「なんだよ」
「なんでもないよ。カクテル美味しいから、私もまた来ようかな」
アカリちゃんが赤いカクテルを口許に運び、目を細める。
笑ったみたいだ。
耳元で、赤い石のピアスが揺れていた。
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