触れてはならない、禁断の果実

24/31
前へ
/31ページ
次へ
「……っては、くれないんだ」 「え? なんて?」 「ううん、なんでもない」 余りにも小さな声で何事かを呟かれたが、尋ね返すと取り繕うような笑顔で首を振られる。 ふと右側から視線を感じて目を向けると、じとっと胡乱な目が二人分、俺に対して向けられていた。 「……鈍すぎ」 「なんかもう、ごめんなアカリちゃん」 「いえ、そんなっ、私は別に」 何故だか浩平が謝罪して、アカリちゃんが真っ赤な顔で慌ててまた首を振る。 俺一人だけが会話の意味を掴めていないようで、置いてきぼりだ。 「なんだよ」 「なんでもないよ。カクテル美味しいから、私もまた来ようかな」 アカリちゃんが赤いカクテルを口許に運び、目を細める。 笑ったみたいだ。 耳元で、赤い石のピアスが揺れていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

476人が本棚に入れています
本棚に追加