触れてはならない、禁断の果実

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なんだか、こんなことになってすみません。 あの子を送ったって、絶対になんもないです。 そもそもが不本意だらけです。 「……えー……っと」 何を言っても言い訳染みて格好悪い。 じっとこちらを見る、猫みたいな目がほんの少し弧を描いて笑みを作り、カウンター越しに手が伸びてきた。 少し前屈みになり、彼女の目が俺の胸元に落ちる。 白い手がネクタイの結び目の少し下に触れて、ほんの一瞬だけきゅっと引っ張られた感覚があった。 歪んだネクタイを、整えてくれたのだ。 「慎さ……」 「もう遅いですから、きちんと家までお送りしないとダメですよ」 ぽん、とネクタイの上から胸を叩かれて、送り出されるような空気が寂しくて、その寂しさにようやく言葉が押し出された。 「送ったらすぐ、戻ってきますから! 待っててください」
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