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「……慎さん?」
「……ん?」
しん、と静まり返った空間に互いの声だけが響く。
それ以上は、言葉が続かなかった。
ただ髪を撫でているだけなのに、物凄く、悪いことをしているような気分になる。
それは多分、俺の中で邪な欲が溢れてきているからだ。
”……いいよ”
そのたった一言が、何度も何度も頭の中でリピートして誘惑する。
だめだ、だめだ。
早鐘を打つ心臓に、落ち着けと言い聞かせる。
これはただ、いつもと違う慎さんに安心して欲しくて髪を撫でているだけで。
これ以上はだめだと必死で自制してるというのに。
横の髪を梳いた指が、慎さんの耳に触れた時。
彼女は俺の手のひらに摺り寄るような、仕草をした。
それは一瞬で、俺の理性を吹き飛ばす威力だった。
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