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元々あったはずの、安心させたい、落ち着かせたいという気持ちはどこかに綺麗さっぱり消えた。
頭の中はただ触れたいという欲だけで支配されて、何も考えられなくなった。
あれだけ慎重だった手が、躊躇いもなく髪の中を潜って後頭部に近づく。
指先に力を入れて頭から首の後ろへ滑らせると、俯きがちだった慎さんの顔が上向いた。
驚いて見開かれた瞳に、ほんのちょっとだけ理性が戻ってくる。
「こ、怖くなかったら。目、瞑ってください」
目を瞑ったら、どうなるか。
わからないはずはないと思った。
「キス」という単語を使って拒否られるのが怖くて、無意識に避けてしまったのかもしれない。
目を閉じる、という簡単な意思表示で構わないから、慎さんの許しが欲しかった。
二つの瞳が忙しなく揺れて、迷ってるのが伝わってくる。
早く、閉じて。
でないと、許可なくやっちゃいそうなんだよ。
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