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きゅっと唇を真一文字に結んで、覚悟を決めたみたいに閉じられた瞼の先で、長い睫毛が震えている。
それで最後のブレーキも利かなくなった。
首の後ろを支える手に少しでも抵抗を感じたら止まらなければと、頭の隅にかろうじて引っかかっているけれど、それが役に立つか自信はない。
どくどくどく。
激しい鼓動の音を聞きながら、上半身を屈めて近づいた。
唇同士が触れる寸前、慎さんが緊張のあまり擦れた声を出す。
「……最低だな」
「え?」
「男同士で、キスできるなんて。最低に趣味が悪い」
どくん、と一際大きく、鼓動が跳ねた。
そうだ、慎さんは俺が秘密に気付いていることを、知らない。
「嫌、ですか」
「……そっちこそ」
「俺は」
このまま男同士としてキスをして、後で慎さんが知ったらどう思うだろう。
俺は彼女を、騙すことになるんだろうか。
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