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閉店までに戻ると言ったのだから、きっと慌てているには違いないが。
戻ってくることは、間違いない。
そうわかってるのに、佑さんに無理やり脳内で空想させられた映像が再生されて、どうにも落ち着かない気分で時間をやり過ごす。
洗い物でもして気を逸らそうとしたけれど、上手くいかない。
あの子の陽介さんを見る目は、とてもわかりやすかった。
彼が好きなんだと、目が語っていた。
いくら僕が彼女に丁寧に接客しようと、きゃあきゃあとミーハーなはしゃぎ方をするのは表面上のことで、その場のノリだ。
もう一人の友人とのテンションに合わせただけに過ぎない。
そのことに多分、陽介さんは気付いてない。
だから、きっとかなり無防備な状態だろうと思う。
先ほどの脳内空想に、簡単に持ち込まれるんじゃないだろうか。
「……はぁ」
出てしまった溜息は殆ど無意識で、だからといって気持ちが軽くなることもなくなお一層、重い。
陽介さんが帰ってきたのは、気もそぞろに漸く最後のグラスを洗い、流し台の掃除をしていた時だった。
「すんません、遅刻しました」
扉を開けて入ってきたときには、なんとも言えず心の底から安堵する自分を知って、認めざるを得なくなった。
僕は、この人を誰にも獲られたくないのだ。
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