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ちょっと手を伸ばされただけでびびって身体を揺らした僕に、彼は当然、弾かれたように手を止めた。
「すみません、つい」
引っ込みきれずに、宙で留まっている拳と陽介さんの顔とを交互に見る。
深呼吸をした。
お構いなしに突っ込んでくるこの男のせいで、もう少し近づくこともあったはずだ。
バッティングセンターではべったり背中に張り付かれたし、その時は怖いとも思わなかった。
今は多分、この二人きりという静かな空間に、過剰に反応してしまうだけだ。
きぃ、と微かな音をさせてスツールを回す。
身体ごと彼の方へ向きを変えて見上げた。
大きな身体を所在無げにして、戸惑っているのがありありと見てとれた。
「……なんで、止めたんですか」
「……すんません、その……ちょっと」
「僕が、怖がったから?」
「俺が悪いんす。ちょっとだけ、のつもりで……あ、頭! 頭、撫でようとしただけで!」
本当に人の良い男だと内心で苦笑いをする。
だけど残念ながら、自分から近づくのはこれが限界だった。
「いいよ、触れば。……別に、陽介さんが怖かったわけじゃない」
彼の手が寸前で止まったことが、寂しく思えた。
そう思った自分が、恥ずかしくて気まずくて、耐えられなくて目を逸らした。
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