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躊躇いがちに伸びてきた手は、すごく大きいのにくすぐったいくらいに優しく触れる。
震えたのは、身体が勝手に過去の経験に怯えただけのこと。
目の前にあるのは陽介さんの手で、あの時のものとは違う。
「……慎さん?」
「……ん?」
おっかなびっくり髪を撫でる手に感覚を委ねながら、僕は身体が覚えている過去と今とを擦り合わせていた。
小さく短く、繰り返し息を吐く。
ここは、あの夜の、埃くさい廃ビルの中じゃない。
この手は、人に優しくすることを知っている。
ただひたすら僕を慰めるだけの手のひらを、心地よいと感じられる。
それをちゃんと確かめたくて、つい頬を擦り寄せた。
もっと、安心したかったのかもしれない。
この手を、誰にも獲られたくないと思った。
僕はきっと、あなたが好きだ。
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