大人の男は安全牌を装うのが上手いらしい

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「男同士で、キスできるなんて。最低に趣味が悪い」 唇同士が触れ合う寸前、そんなセリフを言ったのは、極度の緊張と罪悪感からだった。 それと、不安。 この人は、どんな気持ちで男の僕とキスをしたいと思ったのだろう。 僕がこのキスを受け入れた後、本当の性別を知ったら? 騙されたと思うだろうか。 なんで黙ってたと、怒るだろうか。 それとも、女で良かったと思ってくれるだろうか。 「嫌ですか」と、間近に迫った唇から声と同時に吐息が触れた。 それが余計に、緊張を強いる。 「……そっちこそ」 問いたいのは、僕の方だ。 陽介さんにとって、男の僕の方がいいのか女の方がいいのか。 答えはとても模範的で、一番聞きたい言葉でもあった。 「俺は……慎さんだから、キスしたいだけです」 ”僕だから” 嬉しい、という感情を確かめる余裕も隙もなく、唇が重なった。
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