大人の男は安全牌を装うのが上手いらしい

4/23
前へ
/23ページ
次へ
男というのは、一般的にああいう子が好みだろうなと見ていて思った。 だけど陽介さんは、僕を好きだと言う。 信じてくれと、真摯な言葉で訴えてくれたことを忘れたわけじゃない。 その言葉に、僕はまだ一度も応えていないというのに、ショックを受けた自分も嫌だ。 独占欲ばかり一人前に成長して、僕は一体何がしたいんだろう。 テーブル席とカウンターテーブルをダスターで綺麗に拭いて、カウンターに戻ってくると、流し台に汚れたダスターを投げ出した。 その動作が、荒っぽく見えたのだろうか、また佑さんが癇に障る笑い方をした。 「んなに陽介を独り占めしたいなら、いい加減応えてやればいいのに」 「別に僕は、独り占めなんか」 「まー、俺は見てておもろいからなんでもいいけどな」 出た、最低発言。 言い返そうと思っても、佑さんに言葉で勝てた試しがないので舌打ちだけして黙り込む。 「うだうだしてるうちに、横から持ってかれても知らねーぞ」 「だから、僕はそれならそれで」 「まこと」 言葉を遮るように佑さんに名前を呼ばれ、仏頂面で隣を見ると……てっきり厭味な顔で笑っていると思っていたのに、思いのほか優しい苦笑いで立っていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

452人が本棚に入れています
本棚に追加