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手首を掴む手は少しも強くないのに、振り払うという動作も思いつかない。
「一つ、聞くぞ。俺は、お前が女だってわかってる」
「……うん?」
「その上で怖くないっていうんなら、お前は信頼できる相手なら、この距離でも大丈夫ってことか?」
「……うん……いや。わからない」
昔、僕を裏切ったのは。
信じていた人間だった。
でも、佑さんは大丈夫だ、怖くない。
それは信頼の度合いと、元ではあるが彼が義理の兄であり家族だという認識だからかもしれない。
そして多分、その仕草に全く強引なものを感じず至極淡々としたまま近づかれたせいもある。
「俺は、大丈夫だな?」
問われるままに考え、自分の気持ちを確かめ、小さく頷いた。
「じゃあ、二つ目。相手が陽介なら?」
「それは、近すぎる。こんな風に近づいたら、盛って何されるか」
「俺だったら、何もしないと思うのか」
ひゅっ、と息を吸い込んだ。
そこで初めて、いつもならありえない二人の空気に自分が飲まれているのだと気づいた。
佑さんは、僕を女扱いしたりしないはずだ。
だけどそれでは、この空気の理由が思いつかない。
「義妹として、可愛いと思うよ? だけどな」
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