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ちゅ、と軽く、ゆっくり啄んでから、離れていく。
それから首を傾げて、少し眉尻を下げた、困ったような表情で僕の様子を窺ってくる。
「……なんですか、急に」
「ムスッとしてたから、ずっと」
「……僕の機嫌が悪かったら、そういう誤魔化し方するんですか貴方は」
「すみません、でも可愛くて、つい」
「それに別にムスってなんてしてません」
内心を悟られていたのが、情けなくて格好悪くて、つい語尾に被せ気味に言い返してしまったが、なんだか文脈のオカシイ台詞じゃなかったか。
ムスッとしてたのに、可愛いってなんだ。
「もっと怒ってくれても、いいんすよ」
そう言って、くしゃっと、彼は笑った。
冗談じゃない。
あんな、ドロドロした感情、絶対、知られたくない。
ダンマリで通そうとする僕から、彼は言葉を引き出したいらしいけど、なんでもかんでも、明け透けに気持ちも言葉もさらけ出す、貴方とは僕は違うのに。
きっと僕と貴方は違うから。
言葉にするのは、大事なんだろう。
……恋愛は、難問だらけだ。
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