僕と、勝負してください

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来た……。 振り向かなくても当然わかる。 声と呼び方で、きっと慎さんにもわかっただろう。 恐る恐る見上げると、接客スマイルを浮かべてはいるけれどまるでお面を被ったかのように、固い。 「陽ちゃんも来るんだったら私も連れて来てくれたらよかったじゃない」 「それが嫌だから浩平に頼んだんだろ……」 ヒールの音を鳴らしながら近づいた翔子は、俺のスツールの横を陣取る。 俺は反対側から振り向くと、翔子の後から近づいてきた浩平を恨めしく睨んだ。 「浩平……」 「んなこと言ったって、言い出したら聞かないのお前が一番知ってるだろ」 うんざりした顔で、浩平は翔子を挟む形でカウンターに付く。 接客スマイルを一切崩さずに、慎さんはそれぞれに会釈した。 「いらっしゃいませ、浩平さん。今日は素敵な女性をお連れなんですね」 「初めまして。陽ちゃんがよく来る店だって聞いて、連れて来てもらったんです」
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