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うぐ、とくぐもった声を上げた翔子が恨めしげにこっちを睨んで手を振り払う。
「陽ちゃん、なに?」
「ちょっと黙れ」
「何なのよう」
「いいから! 黙れって!」
事情があんだよ!
兎に角翔子を黙らせる事に必死で、落ち着いていればこの時俺は、もっと上手く誤魔化すことも出来たのかも、しれない。
「……知ってたんですか」
小さな呟きが聞こえて、はっと視線を上げた。
慎さんは表情のない顔で、ただ顔色は真っ青だった。
「慎さ……」
「知ってたんですか」
今気付いたことにでもして取り繕うべきだったんだろうか。
知らないフリをすると決めたなら、最後まで白を切るべきだったのか。
だけど俺は咄嗟のことで、ただ「しまった」という感情を隠せなかった。
”……知ってたから”
声には出ていなかったけど、唇がそう動いた気がする。
じっと俺を見つめたまま、銀色のシェーカーを持った手が、小刻みに震えていた。
次の瞬間、怒るでも泣くでもなく、慎さんは酷く。
傷付いた、顔をした。
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