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カラカラカラ。
と、落ちたシェーカーが店内の空気を破る。
「失礼しました」と、慎さんが屈んでシェーカーを拾い上げた。
他の客も何かあったことは察しているのか、ちらちらと様子を伺う目を向けてくる。
翔子も浩平も、何事かと驚いて俺と慎さんに交互に視線を向けていた。
「ま、慎さんっ、あの」
「陽介、お前今日ちょっと飲みすぎだろ~、じゃれてんじゃねえよ」
固まった空気を無理矢理動かしたのは、佑さんだった。
へらっと笑いながら慎さんの前に出て、浩平と翔子にそれぞれ頭を下げる。
「悪いね、二人今来たとこなのに。この酔っ払い連れて帰ってやってよ」
「佑さんっ」
いや、こんな状態で慎さん放って帰れるわけない。
だけど、佑さんに小声でだがきっぱりと遮断される。
「今日は帰れ。店内でこれ以上、この話は無理だ」
帰るぞ、と浩平にも腕を引かれた。
慎さん、とせめて視線ですがり付いたけれど、俯いて背中を向けられ見ることもかなわない。
店を出る間際、もう一度振り向いた。
だけど彼女の背中は固く拒否をして、ちらりともこちらを見てはくれなかった。
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