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金曜の夜、閉店間際にと言ったのに、陽介さんの来店は随分早かった。
その顔が余りにも、不安そうで焦っても見えて余裕がなくて、何より僕のことをずっと気にしていたのだろうことが見て取れて、つい苦笑いが零れる。
「慎さん、俺っ」
「閉店間際に、と言ったのに。仕方ない人ですね」
顔を見るって、不思議だ。
なんだかそれだけで、僕はもう陽介さんが嘘をついてたって、許せるような気がしてしまった。
ああ、でもそれは、やっぱり陽介さんだから、だろうか。
陽介さんは、これ以上ないくらいの気持ちを伝えてくれた。
「好きです。泣かせてすみません。でも好きなんです。
もう絶対泣かせたくないし、そんな風に男のフリしないといけないくらいに不安なことは、全部消してあげたいしそれは俺の役目じゃないと嫌だ。
だから、どうか、どうか。
俺と、付き合ってください!」
その言葉が女としての僕に向けられていて、僕の為にもう一度告白してくれていることくらいは、僕にもわかった。
こんなにも、僕を好きでいてくれるのに
僕には、その気持ちの受け止め方がわからない。
普通の恋人同士のように、触れ合えないなら
僕はどうすればいい。
「では、賭けをしませんか。僕と、勝負してください」
「貴方が勝てば、僕はあなたと付き合う。でも僕が勝ったら、二度とこの店に貴方は来ない」
最初から、決めていた。
陽介さんがどんな言葉をくれようと、そんな賭けはしたくないと拒もうと。
僕は彼を負かすことを決めていた。
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