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陽介さんが、言い訳もしないで帰った。
背中を向けて拒絶したのは僕のくせに、裏切られたような気持ちになる。
僕だって男のフリをしていたのだから、陽介さんを責められる立場にはないのに。
でも、あの言葉と一緒に、なんか全部が嘘だったみたいに色がなくなっていく。
拒否しても冷たくしても、しつこいくらいにくじけずに向けられてきた笑顔も、キスも、デートも。
無条件で与えられてきた、最大級の優しさも。
「……慎、お前今日はもう部屋に入れ」
「何言ってんの、大丈夫……」
「その顔で接客は無理だ」
たかが恋愛の縺れくらいで、仕事を放り出すには行かないだろう。
そう思うのに、指摘されて頬に触れると、指先に濡れた感触が伝わる。
気付いたら、僕は泣いてた。
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