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他の客にばれないように、背中を向けたまま扉の奥に押し込まれる。
「お前、勘違いすんなよ。最初は知らなかった、それは本当だ」
扉が閉められる寸前、低い声でそう言われて振り向いた。
「陽介がなんで黙ってたのか。全部お前の為だろ。たった一つで、全部を零にすんな。それにお前、今なんで泣いてんだ?」
「え……」
「バレたことが、ショックだったんじゃないだろ。陽介が黙ってたことが、ショックだったんだろ。自分の気持ちを見失うなよ」
言うだけ言って、あとは突き放すようにバタンと扉を閉められた。
その、通りだった。
バレたことそのものは頭からすっぽり抜けて、ただただ『陽介さん』のことで頭がいっぱいで。
どうして、黙ってたのか。
その理由が、自分の都合の良いのものじゃなかったらと思うと、怖かった。
陽介さんの気持ちが、自分の信じたものと違ったらと思うと、怖かったんだ。
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