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まな板のレモンに包丁の刃を入れると、切れ味が悪くなっているのか果汁が飛んで顔にかかる。
目に近い場所だったせいか、沁みて涙が出そうになった。
「話すのが怖い」
「…………陽介は知ったからって、変わんねえと思うぞ」
「だからって」
佑さんは、案外。
女心をわかってないと思う。
好きな男に、知られたいわけがないじゃないか。
だけど陽介さんだから、話したいとも、思った。
ずっと一緒にいたいなら、打ち明けるしかないんだから。
勇気がなくて一歩が踏み出せずに、約束を果たせないままだったけれど、僕が女だと知ってるならもう猶予はなく選択を迫られる。
「お前がどんだけ黙り込もうと閉じ籠ろうと、陽介が簡単に引き下がるわけないしな」
「……はは、そんな感じ、する」
このまま曖昧なままでいられればと何度も思ったけれど、そうもいかない。
初めて陽介さんと交したキスは、とても熱くて扇情的で、その先があることを思わせるキスだった。
だけど多分
僕はその先を、受け入れられない。
その先が、怖いことだと身体が記憶してしまっている。
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