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思い出すのは
小さい頃から何度も喧嘩して、いつも対等だったはずの手に力づくで押さえつけられて、身動き一つ取れなかった衝撃。
僕の悲鳴にビビった幼馴染みに口をふさがれ、床に押し倒された時にぶつけた後頭部の痛み。
高校最後の三学期だった。
隣の家に住む幼馴染みとは中学までおなじで、高校で向こうは男子校、僕は女子校と別れてしまっていたけど、しょっちゅう一緒に遊びに出掛けていて、僕は完全に男友達扱いで。
その日も幼馴染みとその友人と一緒に遊んで、帰りの夜の道だった。
友人とは駅で別れて、幼馴染みと二人で家まで歩いていた途中、小学生の頃によく潜り込んで遊んだ廃ビルの前を通りかかり。
懐かしいから寄っていこうと言われてのこのこと付いていった結果だった。
興奮したらしい乱暴な手に、衣服の何処かから裂けるような音が聞こえた。
埃っぽい廃ビルの空気は懐かしかった筈なのに、犯罪めいた行為を助長する恐ろしい空間でしかなくなった。
体中まさぐられながら見上げた幼馴染の顔に、近くを通った車のライトが一瞬だけ通過する。
酷く歪んだ表情で、
「お前が女みたいな顔をするから」
と、僕を罵った。
その時、僕はちょっとだけ笑ってしまったことも覚えている。
女の私に、酷いことを言うものだ、と。
だけどあの頃、僕には気になる人が出来ていて、確かにいつもより女に見えるような格好をしていた。
それが、いけなかったそうだ。
彼、曰く。
私が、悪い。
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