貴女が涙を飲んだワケ

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それからは数秒の間もない。 「やっ、」という小さな拒絶の声が聞こえ、ドン、と胸を突かれた衝撃でよろける。 すぐに落とさずに済んだのは、毛布に包んでいたからそれほど大した威力がなかったからだ。 「うわっ、慎さ、あぶなっ」 「放せ!」 「放しますから暴れないで!」 未だ手と足をばたつかせる慎さんを、どうにかソファの上にころんと転がして、かろうじて床に落とさずには済んだ。 彼女は素早く起き上がりながら周囲に目を走らせ、最後に俺を見る。 「ソファで寝ちゃってたから運ぼうと思って! そんだけです!」 目の前で床に正座しながら、顔を覗き込んだ。
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