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一瞬彼女が見せた、俺に対する引け目のような言葉と表情は。
それは、俺をベッドに寝かせるための見せ掛けなんかではなかったのに。
温くなった水枕を引き取って、俺に布団を被せ直してぽんぽんと叩く。
その手を掴まえた。
「慎さんも、ちゃんと寝てくださいね」
「はい、わかってます」
「こんな時用に、布団一式買っときます」
そしたら、揉めることなくいつでも泊まってもらえるし。
彼女は、とても綺麗に優しく微笑み返してくれた。
この時見過ごした彼女の引け目は、やがて質量を増していく。
それは、俺が傍に居たがるほど膨張し、彼女を苦しめていくことになるのだと、全くわかっていなかった。
気付いたときには、もう俺にはどうすることもできなくて。
いや、気付いてたって。
同じことしかできないかもしれない。
俺は自分の中に溢れる愛情を
まっすぐ彼女にぶつけるしか、きっとできなかった。
それがだめなら
俺は彼女を愛することは出来ても
傷を深くすることしかできない
癒すことはできない人間なのだ。
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