貴女が涙を飲んだワケ

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駅を出ると、天気は良いが空気が冷たく二人そろって肩を竦めた。 「寒っ、風が」 「慎さん、後ろ歩くんなら右か左かまっすぐか指示してくださいね」 「まっすぐ。行って出た坂道を上」 「了解っす」 真正面からの風避けになりながら歩いて、坂道に差し掛かったところで風向きが変わって慎さんが隣に並んだ。 何気に手を繋ぐと、何の違和感もなく握り返してくれるようになった。 ちら、と横顔を盗み見てもいつも通りの涼しい顔で、多分本当に自然に握ってくれたんだと思う。 「上り坂になるしタクシー使ってもいいんだけど、ちょっと懐かしいから歩いてもいいですか」 慎さんが、前方を指しながら此方を向いた。 ほんのちょっと頬が高揚して見えて、それが可愛い。 「いっすよ勿論。ほんと、結構坂多いですね」 「山裾なので、道によっては急なところも多くて。でも回り道していけば、緩やかなのでそれほどキツくもないですよ」 神戸だと言うから港町を想像していたけど、慎さんの実家のある町は山際で、意外に自然も多い。 大きな池の周辺を散策できるように整備された公園を横切って、ぐるっと迂回しながら登る。 すると、ある道を抜けたところからがらりと雰囲気が変わった。
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