貴女が涙を飲んだワケ

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道の両端に、車が複数台止められそうな自宅駐車場を完備した、立派な家が並ぶ。 しかも一軒一軒の塀の間は密接しているけれど、ガーデニングを施しているようなそれなりの大きさの庭付の家が多い。 「う、わ。なんか、高級住宅街?」 「ここらはそうでもないですよ。このずっと奥に行けば、それこそ塀だけで家なんてとても外からは見えないような大邸宅が何軒かありますけど」 「いや、十分高級ですって」 「僕の家はもうすぐそこです、ほら、あの白い家」 と、指を差された先にある辺りに白い家は一軒だけだった。 そして近づくほどに、徐々にその全貌が明らかになる。 周囲よりも少し新しく見えるのは、改修したばかりとかだろうか。 一階部分はシャッター付の駐車場で車三台は停められそうな幅がある。 玄関はその横にある門をくぐって階段を上がった先だと思われる。 白磁の壁に細長の洒落た窓が並ぶ、団地育ちの俺には十分、大邸宅だった。 「すげー……お嬢様だ」 「違いますよ、ここらへんはこんな家ばっかりだし」 「いやいやいや、ここら辺に住んでるからお嬢様なんすよ」 そういってさりげなく、両隣の家を確認した。 その視線だけで慎さんは意味を理解したのか、小声でぽそりと言った。 「向かって左の家。もう、家は出てるそうですけどね」 「じゃ、会わないですか」 「どうかな。年始の帰省で鉢合わせたら嫌だから、帰りたくなかったんだけど」 慎さんには絶対会わせたくないし視界にも入れさせたくないけど。 俺は、会えるなら会いたいと思ってた。 ただ、会ってどうするかっていうと、その時になってみないとわからない。 多分頭に血が上るから、会わない方がいいのはその通りなんだろう。
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