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「いや、いい。どうせ二月に会うし」
「そんなん式の日なんてそれほど喋られへんやん?」
「今日は、夕方の新幹線には乗らなあかんし、ええって」
辛うじて、口許だけは笑って断る言葉を探していた。
ぎゅっと膝の上で握られるその手に、誰にも気づかれないように重ねると、すぐに手のひらを上向けて握り返してくる。
「ええっ? あんたらそんなすぐ帰んの?」
「あーっ、すんません! 俺の方に予定があって!」
俺がそう言うと、真琴さんが顔を上げてこちらに視線を向けるのが目の端に見えた。
「そうなん? てっきり泊まっていくもんやと思って真琴の部屋掃除しといたのに」
「すんません、真琴さんも一緒に約束してたもんで。今度はもっと、ゆっくり時間作ります」
「急やったもんなあ、仕方ないけど」
「あ、でも! 真琴さんの部屋は見てから帰りたいっす!」
ぎゅうっといつにない強さで握ってくる真琴さんの手を引いて、立ち上がった。
ちょっとでも早く、この空間から逃がさなければ。
そう思いながら、頭の中は沸々と熱が上がっていた。
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