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ぺたん、とラグの上に座る真琴さんの手に引っ張られて、俺も胡座をかいた。
険しい表情の俺を宥めたいのか、彼女に頬を撫でられる。
そのおかげで少し、熱くなった頭が冷えた。
「笑っちゃいますね、デキ婚だって。大昔のことを引きずってるのは僕だけで、向こうは何もなかったように過ごしてたんだなあ、と思って……まあ、わかってたことですけど」
「真琴さん……」
「僕が一人で神経質になって被害者ぶって、一人で大袈裟なことにしてるだけなんですかね、馬鹿馬鹿しくなりそうです。だって僕は事実、寸前で逃げて来れたわけだし」
バツの悪そうな笑い方で、彼女が言う。
そのことに、なんでそうなるんだと怒りにも似た感情がまた、湧き上がる。
「んなわけないですからね!」
なんで、そうなるんだ。
思えば、初めて話してくれた時もそうだった。
僕も悪いのだ、と。
怖い思いをさせられたのは真琴さんの方なのに、俺には酷く、彼女が卑屈に見えた。
「怖かったんじゃないすか! 男の力で襲われたら怖くて当たり前だし忘れられなくなって当然だし」
だからこそなんで、なんでもっと早く、誰かに正直に打ち明けなかったんだろうと思う。
せめて佑さんにでも。
だったら家族の中で、一人でも味方が出来たはずなのに。
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