貴女が涙を飲んだワケ

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「真琴さん……」 「デキ婚だって。普通に女の子と付き合って、子供まで作って」 「……」 「ぼ、僕は貴方に、抱き上げられただけで突き飛ばそうとしたり」 「そんなん気にしてませんよ俺は」 「同じベッドでただ眠ることすら躊躇うのに」 「焦ることじゃないです、一緒に居られれば俺はほんとに充分なんで」 「んなわけ、ないじゃないですか。だって……」 「え」 ずっと俯いて、悔しい思いを吐き出していた彼女が、少し恨めしそうに上目遣いで俺を見る。 唇を噛んで何か言い淀んだ後、またもう一度。 「なんでもない……悔しい」 と言い、目に涙を滲ませた。 「俺も、です」 きゅっと握られた細い手を持ち上げて、唇をくっ付ける。 悔しさのぶつけどころがわからなくて、なだめかたもわからない、そんな自分も、悔しかった。 俺なんかなんも出来ていないのに 「……今日、一緒に来てくれて、ありがとうございます」 そう言われたことが、情けなくて、仕方ない。 出来ることを手探りで探そうとするけれど、見つからない。 それが酷く、もどかしかった。
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